Red 19 (アッパーズKC)

Red 19 (アッパーズKC)

読み終わった。まさか西部劇版『虐殺器官』だったなんて。
感傷的すぎるオチはちとダサいと思ったけどむしろあれを感傷的だと思うことがボンクラなんだろう。
ハードボイルド、冒険小説的なものを由来として召喚されたテーマやキャラクターを突き詰めていくとこういうものになるのかなーと。この作品は冒険小説(漫画ですが)の素材としちゃかなり正統派の題材のはずだけど、一方でいかにもキャラクター然としたキャラの造形にも説得力が与えられていて、そういうハッタリがすげえ上手い。ボスキャラが仕組んでいた個人と国家の衝突というとなんか安っぽいけど個人のドス黒い狂った規範が国家を塗り替えつつあるところで復讐に倒れ、国家の規範は温存され、歴史は紡がれていくという。アメリカの正史と反乱の歴史が併走しつつある瞬間を切り取っていたわけだけど、うまいこと組み込まれていたなと。西部劇という舞台設定で『虐殺器官』なので、色々と反転したような感じになっている。ラスボスはジョン・ポールよりもむしろ主人公の、誰だっけ? クラヴィス? のほうが近い。移民から兵隊になって成り上がった特殊な立場にいる軍人が混沌の規範を撒き散らしている、というのが前提の物語だし。そのへん再読すればなんか書けそうだけどしばらくは余韻に浸ろう。
主人公の復讐はじめ、他のメインキャラクターも、物語がドライヴしていく瞬間があってすごいアガるんだけど、でもそれは彼ら彼女らのミッションが妄信的正しさの中で完遂されることは無い。それこそキャラクターの行動原理と規範を揺るがされたりするんだけど、そのまま規範を失ってしまったり、再定義されたりするわけで。その規範の揺さぶりも波乱万丈でワッフルできた。ただ復讐に溺れる戦士を描くだけじゃ舞台設定が魅力的でも自堕落な自己愛にすぎないし、ダメなラノベのアレとかソレとかと変わらない。力強い物語はやっぱりドラマの衝突があってこそでしょう。
イノセントな部分と俗っぽい卑小の狭間にいる人物像をいっぱい楽しめたのも個人的にポイント高い。ジジイから褐色ロリータまでキャラが立ってたし、充実した読書でした。