最高峰と最先端

シャングリ・ラ

シャングリ・ラ

池上永一は初めて読んだのです。ブッ飛んでるよ、みたいな評判は耳にしていたがどうもオイラの触手に反応しなかったので。実際すごいッス。文章の密度も濃いので大満足な読書だった。ナウシカとか攻殻機動隊とかスクライド的、あるいはチャンピオン的テンションをアレンジして設定、世界観、ギミックで彷彿させながらストーリーテリングも冴え渡ってラストもきれいに着地するので小説としての総合力みたいなもんがあるとすればオールジャンルの年間ベストワンにしてもいいくらい。いわゆる荒唐無稽なアニメっぽい、というベクトルでは歴代最高峰になるはずで。つっても極端に少ないですけどね。こういうテンションで小説を書いてる作家って。書ける人も少ないだろうし。
キャラとキャラの関係性がほとんど完成された状態で始まって、もちろん変化はするけど設定とか物語の要請としてそれが起こるって意味で良くも悪くも安心して読めてしまう。エヴァオタが期待するのはやっぱり物語の悲鳴なわけでさ。選ばれた天才たちの世界を巡る一大スペクタクルって、なんか違うやん。オーソドックスな英雄譚と愉快な周りの人たちだから。最高峰ではあるけど最先端じゃないッスよね。これをアニメ化っていうのが容易に想像できてしまうのもその証明にならないか。しないだろうけど。とりあえずこれはアニメ的、ライトノベル的センスのエッジではない。つうかポストエヴァの小説として読めないだけか。エヴァ以前のセンスの後継者ではあるはずだけどさ。つうか俺らの世代にとって天皇とか空気みたいなもんじゃん、空気っていうか、象徴としての存在に何も求めてないっていうか。でもエンターテイメントとして読んだらアホほど面白い。それでいいはず。でも『サウンドトラック』と『グランヴァカンス』の方が好きだな。いや、個人的にゼロ年代SFに限定したらツートップなんで、この二つが。

このミスの隠し玉ではやっぱり打海文三津原泰水を真っ先に読むわけだけれども打海は秋ごろか、津原のアスキー連載作は毎週読んでたが完全版ということで期待。つうかあれ全部で200枚くらいしかないはずなんだけど、加筆されるとしてもけっこう短いよな。鬼才がライトノベルに接近ということで見逃せるはずはないのだがもうちょい話を膨らませて欲しかったような気もする。まだ出てない本に文句言う最悪っぷり。