いつか化けるいつか化けると言われ続けて……。

されど罪人は竜と踊る9 (ガガガ文庫)

されど罪人は竜と踊る9 (ガガガ文庫)

あらすじはこんなの。

アナピヤを失いジヴーニャと別れたガユスは、傷心を抱えエリダナの夜を彷徨い、強敵ユラヴィカを失ったギギナは、剣の方向を見失う。そんな中、最悪の殺人者で〈ザッハドの使徒〉であるアンヘリオがエリダナに現れ、血の祝祭を開宴。使徒を迎え撃つために、ついに最凶の咒式士であるパンハイマとその一団が動き、聖女ペトレリカが心を痛める。使徒逮捕のために派遣された特別捜査官が隠す謎とは? それぞれの思惑から共闘と不和が渦巻くエリダナに、殺人の数を競う使徒の殺人遊戯が開幕する!

前編後編のインターバルが11ヶ月というので再読。
物語が終わったあともその人の人生は続いていくというテーゼ。一度書かれた物はそのあとも物語の中でひたすら文節され続ける。一つのエピソードの中、一つの書物の中。キャラクターはその文節を引き受け続けなければならない。その苦痛。
とまあこんなふうに書くとかっこよさげだが読まされるほうはちょっと厳しいのうと思った再読である。

久々に読んで思ったけどなんかブヨブヨした文章だなあ。ガガガに移籍してからは基本的に文章がブヨり気味だけど、さすがに今回はもうちょっとタイトに出来るだろう。服装の描写を3行くらい使ってそのキャラが出てきたらまた同じ描写を入れたりしてるし「それさっき同じこと書いただろ」と。
アンヘリオという殺人鬼キャラの異名?が「〈動く断頭台〉こと〈金剛石の殺人者〉」なんだけどこのフレーズはたぶん100回くらい出てくるし、セリフで「ここは〈動く断頭台〉こと〈金剛石の殺人者〉の犯行現場だ」とか何だそれはと。
〈金剛石の殺人者〉や〈動く断頭台〉と呼ばれている〜とか順番が逆になって出てきたり、もしくはそのどっちかだったり。
しかも〈ザッハドの使徒〉という冠がすでについてるし。他にも異名とか二つ名がやたらめったら出てくるのよ。異能ラノベのお約束だけど、ねえ。

〈ザッハドの使徒〉のアンヘリオは〈動く断頭台〉こと〈金剛石の殺人者〉と呼ばれている、とかアイデアノートじゃないんだからさ。アンヘリオに限らず異名が付いてるキャラが作中で「報道では俺の事を〈〜〜〜〜〜〜〜〉と呼んでいる」とか作者もそこで恥ずかしがるなら最初っからそういうやりとりが不要な語り方でやれよとw

無駄に名詞が多いんだよね。ただのやられ役のモブキャラの使う刀の名前までいらないだろw
情報を詰め込むのはいいんだけどそれが整理されてない気がするなあ。世界とか社会とかを描こうとする意思のあらわれでもあるんだけど、その地名とか組織とか会社とかブランドとか武器とか人名とかが有機的につながりを持ってないので。
基本的に話の筋とは関係のないディテールに凝ってる印象が強い。力を入れるところ間違ってねーか?
あとやっぱ作者はミソジニーこじらせてます。そっちがメインなんじゃねーかってくらいにそっち方面の分析と言い訳が多いwそのせいで話のテンポが悪い悪い。事あるごとに「今の恋人が〜前の恋人が〜その前の恋人が〜妹が〜」とかイチイチうるさいw
作者は誠実にキャラの内面を描こうとしているのかもしれないけどぶっちゃけ過去を清算できないダメ男の自己憐憫だからな。
http://twitter.com/#!/ASAILABOT/status/76104489626644480

ミソジニーの正体とは?http://bit.ly/gCXFx5 < 非モテだけでなく女好きの内部にもある「女の肉体は好きだが、女の内面はいらない」という傾向は、前々から注目していて、原因はなんだろうと思っている。

ラボさん天然か!w
作中でも度々メタ的に(ムリヤリ)ぶっこんでくるんだけど、ポーズでしかないのがダメなんだよ。

さておき、前読んだときはけっこうおもしろかったんだけど再読するとキツかった。
前フリにどんだけ時間使ってるんだよと。
新しいヒロイン(しかも高級娼婦!)という作者にしては蛮行だとしか思えないキャラのせいでもあるけどエリダナの裏社会がどうたらとかもさほど必要だとは思えないし、9巻終盤のムチャクチャ強引ないくつかの展開とかちょっと首を傾げてしまった。でもこの新ヒロインどういう扱いになるんだろうなー、まだ旧ヒロインが聖人キャラというポジションで出しゃばってきてるからたぶん10巻でぶっ殺されるんだろうけどw 
〈ザッハドの使徒〉とか言われてるけどブタ箱にいるザッハド本人は別に使徒たちと面識ないうえにその〈ザッハドの使徒〉と呼ばれている殺人鬼たちだって別にザッハドを崇めてるわけでもなさそうだし、なんか今回はハッタリのための舞台設定の土台がグラグラしている。ガガガ版3巻4巻はもっとハッタリが効いてたのに。
理由も目的もない快楽殺人といいながら一応ザッハドの輸送計画にあわせて殺人鬼大集合で虐殺開始だぜヒャッハーという話なんだけどそのメインの話のネタがこの巻ではほとんど出てこないのでイマイチ乗っていけないなというのと、主役二人の師匠であるジオルグ殺しの疑惑があるパンハイマとかも絡んでくるけどここの過去話にちゃんとオチつくのかが一番心配。またガユスの女関係みたいにウダウダやられたらもういいかげんにしてほしいw
まあこのシリーズはもう破綻寸前でそろそろガユスとギギナが事件に関わる必要性がなくなってきたしエリダナで事件が起きる理由付けもしんどくなってきたし、物語のエントロピーという外部性への不信感が擦り切れてきたのかもしれない。
浅井ラボの作家性として、物語に立ち向かって克服するという行為が根本的に信じられないでいるわけでしょう?
鬱展開を引き受け続けることこそがラボにとっての不信感の表明になっているせいで過去の物語はキャラクターの中で昇華されずに沈殿する一方だから物語本編がドロドロに腐っていく。何か手を打たない限り打ち切り時だね。中小グループのまとめ役にガユスとギギナがなるんじゃないかみたいな話を作中でやってるんだけどあれは伏線なのかしら。物語にネクストステージを用意してキャラクターを出世させるのは作者の美学的にはアウトな展開だと思うけど、それを実行するにはいつまでも自己憐憫を引きずる展開やってるわけにはいかないはずで作者がそこをどう乗り越えるのかは楽しみです。
え?ガガガ版で追加されたループ設定?こまけえことはいいんだよ!