シュガーシスター1/2 (電撃文庫)

シュガーシスター1/2 (電撃文庫)

まず、アマゾンでの圧倒的高評価を確認。2巻がさらにすごいんだ。2012年ラノベのアベレージでは最高クラスであろう。これはチェキやで。
で、よむん。
むう。これはおそらく親族や友人を動員したアマゾンマーケチング。よく考えれば全然売れてないのにこんなにレビュウがつくはずがなかったぞ。なんかレビュウの文面が1巻2巻で同じようなのが多いぞ。

タイプムーンフォロワーの現代異能。異能を受け継ぐ実家を放逐された姉と弟、でも姉は幽霊で、ブラコンで、エナジードレインすることで実体化して9歳になったり15歳になったり、なんか見たことある感でもてなしてくれて、ラブコメありミスリード仕掛ありと、つまらないとまでは言いませんが、まあこんなもんだな。同じタイプムーンフォロワーでも魔女カリ読んで出直してきたほうがいい。
何か、最近は特殊能力を持ってて設定的にはあまり人に知られるのは好ましくないのにそれを使わざるを得ない環境に身を置いて、敵キャラが「お前それサバンナでも同じこと言えんの?」とわざわざ活躍のお膳立てしてくれるというのが流行りつつあるのかもしれない。自尊心と被害者意識はいっちょまえで、サバンナの掟を軽蔑したり、そこから距離を置きたいポーズを取り、「それっておかしくねえ? だってここ日本(平穏な日常)じゃん」と嘯きながらサバンナを生きるために必要な特殊能力で日常を維持するダブスタメソッドという。
攻略が至上命題のはずのデスゲームで人が死んでるのに嫉妬されたくないというすごい理由で二刀流を隠す黒の剣士とか、存在を秘匿しなければならないはずだけどどっかの魔法科高校で栄光オンザロードをひた走る劣等生とか。まあこの二大巨頭ほどの傲慢さはないけど、でも傲慢じゃないからおもしろくなかったりするんだなあサバンナ系ラノベは。二大巨頭みたいにナチュラルに差別主義、男根主義なほうが読んでて色んな感情を誘発させてくれる。これは草食系受身主人公すぎてそれほどサバンナっぽくない。もっと女の頭とか無意味にナデナデして女は頬を染めろ。もっと自分達以外はアホで間抜けで栄光のための踏み台扱いにしろ。そして俺を怒らせ、苦笑させろ。

「お前それデスゲームでも同じこと言えんの?」
「それっておかしくねえ? だって女ゲットしまくりでゲーム内で唯一の二刀流で周りから嫉妬とかされたくないじゃん」

「お前それ残酷なまでの実力主義の魔法師の世界でも同じこと言えんの?」
「それっておかしくねえ? だって俺(何もかも全てが完璧な超人だけどお前らの物差しでは理解できないから)劣等生じゃん」

「お前それサバンナでも同じ事言えんの?」
サバンナの掟を強いられると彼らはそれを拒否する。やれ、ユニークスキルだ、やれ魔法消去だと、サバンナの掟には存在しないものを持ち込んでこれでサバンナでやっていくのだと言い張る。だってここ日本じゃんという別の掟を言い訳にし、自分達の正当性を主張し、さらにサバンナの掟に従う名もなき人々を軽蔑し、矮小化する。やがて彼らはサバンナの中で自分達にとって都合のいいアトラクションを建設し始める。
言うなれば、自作自演で作られる楽園としてのサバンナである。彼らをもてなし、彼らを癒し、彼らを成長させる作者の善意に満ちたサバンナ。そのサバンナでは危機と奉仕は同義だ。悪意も危機も矮小化され、彼らへの奉仕のために存在している。そのアトラクションは読者を安心させる。現実のサバンナでの残酷を忘れさせ、克服の疑似体験さえ与えてくれる。しかし、外部のサバンナの残酷はより確かな残酷となって現実として漂ったままだ。そのアトラクションが充実すればするほど、内側と外側のコントラストが強調されることになる。その残酷はアトラクションの内部では対話にすら値しない愚かな仮想敵として演出される。仮想敵からの侵略から領土を守らねばならないと演出される。自分達は侵略を受けているのだと演出される。そこには対話がなく、ただ相手を屈服させることでのみ領土問題は解決を見る。そうして彼らは領土を守った英雄になる。
今日では、おそらく誰もがサバンナの掟からは自由ではない。協力、連帯、尊重、何か善きものとしてのそれらよりも、他者を蹴落としてでも這い上がり、他者から奪ってでも自らの領土を確保したがる。限られた何事かを奪い合うことを半ば強いられ、それを黙認する。一方、サバンナの内部に築かれた楽園的領土の中で支配的な掟も、外部=現実のサバンナの残酷と同じルールで成立しているのではないだろうか。むしろ時には現実以上の残酷と特権性をもって他者を蔑ろにすることさえあるのだ。彼らのやっていることは結局のところ、馬鹿馬鹿しい戯画でしかない。
たしかに、サバンナの掟を変えてくれるような英雄は待たれているのだろう。だが、どいつもこいつも百獣の王として持てる存在である自分を誇示したがる俗物ばかりだ。
ハードボイルドにおいてはサバンナ=爛熟した穢れた都市であり、その都市の穢れがあるから孤高のオッサンもまた存在できるというwin-winな関係なんだけど、サバンナ系ラノベはどうもライオンとライオンのためのエサの生肉と引き立て役のハイエナだけで成り立ってるような、そんなイメージ。電撃三木園長が経営するサファリパークだね。