ジャンゴ 繋がれざる者

タランティーノ映画はやっぱりハイコンなんだなって思いました。アニメを見ていて、なんとかのなんとかってなんとか感あるっていうツイートをするときのアレな気分。
ガンガンに攻めまくりの会話とそれに伴うプロットの緊張感や血がドバドバ飛びまくりのバイオレンスで3時間の長尺をかんじさせないおもしろさなんだけど映画オタクとしてのオマージュらしきシーンになるとちょい萎え。なので、「あ、たぶん今がそういうシーンだな」という場面では声を出さずにちょっと肩を揺らしてわざと笑ったりしました。両隣に座っている人に「こいつ、できる」と思わせるために映画オタクのフリをするという、作中のテーマを映画館で実践したわけです。(主役の二人の賞金稼ぎが商人のフリをして悪役のディカプリオを騙そうとするん) ほぼ満席でしたが、ギャグっぽいシーンでも客に笑いが起こる瞬間が一回もなかった。共犯関係結ぶのに失敗してる。

アニメを見ていてなんとかがなんとか感といえば、愛する人を取り戻すために極悪人の屋敷に乗り込むので、ジャンゴはソードアートオンライン感ありましたね。ジェイミー・フォックスはなぜか最強クラスの拳銃の使い手だし。クライマックスはめちゃくちゃ強引に俺TUEEEが炸裂して奥さんを取り戻すからねw

基本泥臭いマッチョ映画なんだけどたまにメタなノリになる瞬間があって、そこが気持ちよかった。序盤にビールを入れるシーンがあってそこが屈指の名シーンw あれは神編集だった。音楽の使い方もよかったですね。オマージュっぽい使い方をしているはずだが、ネタが分からなくてもかっこよく思えるのは音楽のいいところ。正直見ててウッヒョーってなるような映画ではないし、個人的に好きなタイプの映画でもないんだけど、体験としてのカタルシスではなく細部のくすぐりを楽しむのが映画オタクなのかなあとそんなことを今これを書いていて考えている。

なんか難しいことを考えようとすると黒人を奴隷にしていた歴史のうんちゃらかんちゃらで前作のイングロもナチスをうんちゃらかんちゃらででも結局は現代的な視線から見て間違ったことをしているであろう連中は皆殺しにするという正義の映画なんですが、雰囲気映画として楽しむか、激安映画として楽しむか、そのへんは色々ありそうです。これもイングロも社会派っぽいテーマをエクスキューズにした復讐譚であり、しかしフィルムから受ける印象は良くも悪くも暴力の寓話に留まっている。奴隷制とかナチといった近現代の歴史的な事実の暴力とそれに対する復讐の暴力という。

社会派映画なので、一種の悪の構造みたいなもんが要求されるわけです。しかしタランティーノは構造を撃つ、というようなアプローチをとらない。代わりに、その構造=奴隷制を内面化した悪党を持ってくる。世界精神を背負った現代的な悪役とか、そういった文学的なアプローチをとらない。それをある種の慎みとして受け取れば、TUEEEもまあ納得できるw といってもラノベみたいな間の抜けた快楽原則ではないのでちゃんとした男のドラマになってる。でも総評としてはそんなにかなあ。あんまり仁義とか愛とか、まあそういうのも分かるけどっていう。ヒロインの可愛さアピールも足りないし、相棒のヴァルツの扱いもけっこうひどいし、英雄譚としては微妙なくせにラストが爽やかだしw 
社会派俺TUEEEで、神山009を超える傑作を撮るのはタランティーノをもってしても困難だとは! ソードアートオンラインもそうだし、日本のアニメはやはりすごいということですね。(え?
悪役の造形にしろ、題材の扱いにしろ、フィルムの訴えるものが黒人を奴隷にするってひどいことだよね、という常識的な範囲に留まり、観客へのゆさぶりが映画に淫することに徹していて、社会派テーマでの問いかけや善悪への懐疑とかの中二病にならないから地味っちゃ地味。
映画の教養が欲しい。ディカプリオが黒人の骨のくぼみがどうとか言い出したときに神山009の天使の化石と繋がった感あるとかそういうんじゃない、ちゃんとしたモテる感じの教養が。ジェイミー・フォックスが行く先々で奥さんの幻を見て「あ、「彼の声」が聞こえてるんやな」とかそういうんじゃないちゃんとしたモテる感じの教養が。