読んではいけないものを読んだ。

素粒子 (ちくま文庫)

素粒子 (ちくま文庫)

最低で最悪で最高で極上の小説。3年位前に読んであまりのヤバさにこれだけは再読しないようにしよう、作者の他の作品も読まないようにしようと決意したのだ。だが読んでしまった。ああ、もうダメだ。何もかもがダメだ。俺の脆弱な世界じゃウエルベックに対抗できない。極限にまで研ぎ澄まされた憎悪の前で震え上がるしかない。
モテ、非モテの小説なの、これは。クソまみれの人間の内面とクソまみれの人類の歴史のなかで最後の砦として恋愛と性的快楽がある。それすら階級的になってるというのでグダグダになってるのが現代社会なのはもはや言うまでもないわけだが、じゃあどうすりゃいいのよって誰でもちょっとは考える。考えた上で恋愛資本主義に乗っかる、降りる。オシャレする。恥ずかしくない程度の服を着る。愛する、憎む、見下す、見上げる。容姿やスタイルの格付けをする。チンコやマンコの具合を比べる。自分がどれくらいの快楽を知っているか、知らないかを知りたがる。あるいは美しい、劇的でロマンチックな本当の恋愛を目指す。金で女を買う、男を買う。キャバ嬢やホストに貢ぐ。オナニーをする。
モテ、非モテだけじゃない。ありとあらゆる人間の美徳が否定され、悪徳も否定される。あまりに真に迫る美徳も悪徳も等しく扱われ、拒絶される。いや、否定も肯定もない。ただ人間が世界の中でそのようなものとして存在しているということが綴られているだけである。尋常ではない破壊の衝動とともに。果てしなく哲学的だが文学的では全くない。世界を分節しながらその世界から何も汲み取ろうとはしない。理論的な散文でことごとく破壊を繰り返すだけである。
誰もが思う「この世界は呪われている。そして自分はそんな世界を呪ってもいる」誰もが願う「世界を救いたい、呪いから解き放ちたい」だが世界は呪うにも救うにも値しない。なぜなら誰もが人間だから。
こんな妄言を吐きたくなる小説。読んではいけない。いや、やたらリーダビリティ高いし、人によってはめちゃくちゃ面白い小説なんだけどね。俺は読んでてつらかった。リアリズムっていうか現実的構築性が高いから書いてあること以外の自分の人生が連想されやすい。べつにドラマチックな人生じゃないけどさ、確かに生きてきたわけ、ああ、もうイヤ。弱いなあ、俺。フィクションごときに打ちのめされるなんてよ、クソ。