中村九郎

異端の才能が真っ当な傑作を書いたことを歓迎すべき。前の二作における文体とピュアネスの幸福な出会いはやや後退気味でその代わりにここではいかなる感情も相応しくないような、否定的とも肯定的ともいえない不思議な感情が充満している。単純に作者が世界に向けているフェティシズムといってもいいのだろうけど少なくとも俺はこういう感情を知らない。そこに共感できたというだけで幸福な読書だったと思う。
感触は近いとこだと『Forest』みたいな感じか?それともラグーン商会ミーツ幻影旅団というか。叙情性を強調した二重三重四重の仕掛けとラヴストーリーの果てに三井川=ロックはVIPの世界、ロアナプラ=流星街の住人になることを決意する。指の隙間からこぼれていく砂を眺めるようなラストのカタルシスも冨樫や広江と親和性があるようなないような。これの方がロマンチックだけど。そのロマンスと作者のフェチ、ラノベ然としたギミックの共存が恐ろしいほど巧みに達成されていて昨今の一般文芸に対するファックとしても最高の武器となりうる作品。
250ページとは思えない密度も異常。この文体でこの密度はねーよ。