『アンダー・ラグ・ロッキング』感想

アンダー・ラグ・ロッキング (電撃文庫)

アンダー・ラグ・ロッキング (電撃文庫)

数年間積んでた本ですがこれがまさに名作と呼ぶにふさわしい逸品で、1巻モノのラノベではオールタイムベスト級に気に入りました。
第一印象は「あんまりラノベっぽくないなあ」というもので、設定も「ぼやけた輪郭の戦争」という今ではありがちになったイメージを拝借しているのでパッと見「はいはい、セカイ系セカイ系」としてしまうことも出来るんですが、それだとあまりにもったいない読みになってしまう(最初の短編が書かれたのは時期的にサイカノ連載中のセカイ系黎明期)。まあセカイ系と言ってもセカイの秘密に触れたヒロインと無力な少年というフォーマットではなく、どちらかというと戦争を舞台にした近未来SFの設定上で一種のフェイクドキュメンタリーのようなことをやっているというのが読み進めているときの印象でした。ガンパレ経由の想像力かも。ミニマリズムに接近したガンパレというか。映画的な静謐さも持っているし、脳内イメージでは新海誠の画面が浮かんでました。
主役である狙撃兵の少年少女がいかにして現在進行形の戦争と関わってきたのかを印象的なセリフやエピソードを交えつつ「静けさの中の熱狂的なポエジー」と言いたくなるようなクールな文体で書かれているのでそこにまず惹きつけられた。戦闘シーンの描写がいちいちカッコイイのよ。やっぱり小説は文体だね(キリッ 騙りのレイヤーがいくつか存在していて、大まかな時系列は示されているけど唐突に別のレイヤーからの騙りが挿入されたりする箇所があるのですが、そこも印象的なセンテンスできちんと違和感を感じられるように設計されているのですんなりと受け入れられるかと。
作者がキャラクターを突き放しているような冷徹な文学性も感じられ、その作者の厳しさのまま、一見ラブラブである主役の2人は歯車が噛みあわないまま終わってしまったことを示唆してそこで終わっています。ある意味尻切れトンボ、欠陥品、駄作、しかしどういうスタイリングが好みかは人それぞれ。成熟を拒否した2人はセカイに亀裂を入れることを試みました。作者がこれ1冊で消えたことも含め名作扱いしたい作品です。SFにもファンタジーにもならずに現代的な心象風景を抽出するというライトノベルの一つの達成がある程度実現されていると思います。
最後にどうでもいいことを言うとかずといずみの丸っこいキャラがなぜか『ヘタリア』を連想させてしまって挿絵が出てくる度に萎えたw