ラノベオタが同じくラノベばかり読む彼女に非ライトノベル世界を軽く紹介するための10選

まあ、どのくらいの数のラノベオタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、「ラノベオタではあるんだが、しかしキャラ萌えにしか興味がなく、でもこっちのクオリティコンプレックスを肯定的に黙認してくれて、その上で全く知らない文芸の世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、非ライトノベルだがライトノベルとして読めそうな作品のことを紹介するために読んでもらう10本を選んでみたいのだけれど。

(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女に文芸趣味を布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴うドストエフスキープルーストは避けたい。できれば00年代の単発作品、長くても巻数の少ないシリーズものにとどめたい。あと、いくらクオリティコンプレックスといっても一般文芸臭を感じすぎるものは避けたい。映画好きが「小津と溝口は外せない」と言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。そういう感じ。彼女の設定は文芸知識はいわゆる村上春樹村上龍的なものを除けば、三島由紀夫は何作か読んでいる。サブカル度も低いが、頭はけっこう良いという条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。

まあ、いきなりこれかよ、と思うけどライトノベル的なキャラを置いてイーガン以後の企みを有効な方法論として決定付けたものとして外せないんだよなあ。シリーズの続きはなかなか出ないけど。ただ、ここで続編の『ラギッド・ガール』のネタバレをしてSFトークを全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。この情報過多なシリーズについて、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。
好き好き大好き超愛してる。

好き好き大好き超愛してる。

GOTH―リストカット事件

GOTH―リストカット事件

この二作品って典型的な若者ぶりたいオッサンが手に取る若者のために書かれた小説(そうオッサンが思い込んでいるだけ。実際はもう時代に取り残されつつあるセンスの厭世観)」そのもの、という意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな素材なんじゃないのかな。「ラノベとしてはちとセンスが古い。でも森野夜だけは萌えキャラとしていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。
裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争

裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争

ある種のオタが持ってる、コードギアスに見られるような荒廃した近未来でのサヴァイヴへの憧憬と、作者独特の恋愛やジェンダーに対する思索へのこだわりをラノベちっくなキャラクター描写として彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えて谷口悟朗作品に出てきそうなオタ好きのするキャラ属性をきっちり作品世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。
天使

天使

たぶんこれを読んだ彼女は「少女漫画だよね」と言って作者を激怒させるかもしれないが、それが狙いといえば狙い。この系譜の作品がその後続いていないこと、これが北米の日本SFレーベルであるハイカソルでは訳されていないこと、もしも訳されて、運がよければちょい耽美な文芸映画になって、それが日本に逆輸入されてもおかしくはなさそうなのに日本国内で意外とこういうのが書かれないことなんかを、彼女となぜこれが少女漫画じゃないのかを軸にしながらじっくり話してみたいかな、という妄想的願望。
新世界より (上)

新世界より (上)

「やっぱりラノベは大人が読むものじゃないよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「悪の教典」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかける貴志の思いが好きだから。断腸の思いで削りに削ってそれでもハードカバー上下巻1000ページ超えっていう尺が、どうしても川上稔を連想してしまうのは、その「捨てる」ということへの諦めの悪さがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。この長さを俺自身は冗長すぎると思うけれど、一方でこれが宮部みゆきだったとしても大して変わらないだろうとも思う。なのに、各所に頭下げて迷惑かけて1000ページを作ってしまう、というあたり、どうしても「自分の物語を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえ貴志がそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。作品自体の古臭さと合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。
Another

Another

今のラノベ好きの若年層で綾辻を読んだことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、あえて紹介してみたい。綾辻の哲学とか技法とかはこの作品を書くまでもなく、すで頂点に達していたとも言えて、『十角館の殺人』でのデビューして、奈須きのこに多大な影響を与え、そしてその本家の作家がフォロワーに刺激を受けてこういった00年代の流行要素を引用した作品を書いたというのは、別にひぐらしをプレイしてなくても、なんとなくラノベ好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆる新本格を知らない彼女にも見せてあげたいなと思う。
マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

冲方丁の特異性あるいは作者のラノベに対する屈折をオタとして教えたい、というお節介焼きから読ませる、ということではなくて。「血だまりスケッチ」的な一種の悪趣味を福音として受け入れられる感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそ『まどか☆マギカ』最終話はグレートマザーエンド以外ではあり得なかったとも思う。「絶望からの救済へ」というオタの感覚が10年代の今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源はこういうノワールに求められるんじゃないかという、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。
シャングリ・ラ

シャングリ・ラ

これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。こういうぶっとんではいるがどこかジュブナイル風味の小説をああいうかたちでGONZOがアニメ化して、それはオタには受け入れられなかったのだけれど、原作のパンクな作風が彼女にどんな感情を誘発するか、というのを見てみたい。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

9本まではあっさり決まったんだけど10本目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にハーモニーを選んだ。飛浩隆から始まって伊藤計劃で終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、飛浩隆のテクノロジカルランドスケープとは異なる、「YouTube以降の小説」の先駆けでもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、作者はすでに亡くなられている。

というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。「evatakaは駄目だ。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。

というわけで元ネタはこちらhttp://anond.hatelabo.jp/20080721222220
それにしても、このチョイスは完全にスタジオボイス